名のない首輪が戻ってきた話|捨てても翌日には玄関に置かれている
飼ったこともない犬の首輪が鍵をかけた部屋に現れる。捨てても戻る。置かれる場所が年々近づいてくる理由を、まだ誰にも話していない。
祖母の納戸から消えたもの
去年の10月、仕事から帰ってきた俺の目の前に、それはあった。
玄関のたたきの真ん中。靴を脱ぐスペースのちょうど中央に、古い犬の首輪が一つ、きれいに輪を作った状態で置かれていた。
長文になると思います。文才もないので読みにくいかもしれません、許してください。あと、まだ進行中の話なので、途中で終わるかもしれない。それでも書き残しておきたかった。誰かに聞いてほしかった。
俺をAとします。都内で一人暮らし、28歳、会社員。霊感はない。オカルトは好きだけど、自分に何か起きるタイプの人間じゃないと思って生きてきた。
話の発端は、去年の夏。お盆に母方の祖母の家に帰省した時のことだった。祖母の家は都内の俺のアパートから車で1時間半くらい、千葉の山寄りの地域にある。築60年以上の古い平屋で、裏手に納戸と呼んでいる離れがあった。
お盆だから仏壇の掃除を手伝っていたんだけど、祖母に「ついでに納戸も片付けてくれないか」と頼まれた。納戸は普段は鍵をかけていて、祖母も年に数回しか開けない場所だった。湿った木の匂いと、埃と、かすかに線香の残り香が混ざったような空気。中は薄暗くて、古い農具や使わなくなった家具、段ボール箱がぎっしり詰まっていた。
その奥のほうで見つけたのが、犬の首輪だった。
赤い合皮の、よくある犬用の首輪。サイズ的には中型犬用くらいだと思う。金属のバックルは錆びていて、名前を彫るための小さな金属プレートがついていた。でも、そのプレートには何も刻まれていなかった。裏も表もつるんとした銀色のまま。
俺は祖母に聞いた。「ばあちゃん、犬飼ってたことあったっけ」
祖母は首を横に振った。「ない。うちは一度も飼ったことないよ」
じゃあ誰のだろう。祖父のものかとも思ったけど、祖父は俺が生まれる前に亡くなっていて、確認のしようがない。祖母も「知らない。前からあったのかもしれないけど、覚えてない」と言うだけだった。
俺はその首輪を、なんとなく気になって持ち帰った。
ここから、おかしなことが始まる。
鍵をかけた部屋に、それはあった
8月の終わり頃、俺はその首輪を自分の部屋の机の引き出しに入れていた。別に飾るわけでもなく、捨てるタイミングを逃していただけだ。
9月に入って引っ越しの準備をしていた時、引き出しを整理していて首輪を見つけた。もう要らないなと思って、燃えるゴミの袋に入れて、翌朝のゴミ収集に出した。
その日の夜。仕事から帰ってきて玄関を開けたら、たたきの上に首輪があった。
最初は自分の記憶違いだと思った。ゴミに出したつもりで出してなかったのか。寝ぼけていて引き出しに戻してしまったのか。でも、ゴミ袋は確かに集積所に持っていった記憶がある。それに、引き出しじゃなくて玄関に置いてあるのが変だった。
自分で置いた覚えがない。
気持ち悪かったけど、とりあえずもう一度引き出しにしまった。
10月。冒頭に書いたのがこの時の話だ。
今度は別のゴミの日に、ビニール袋に二重に包んで、きつく結んで捨てた。朝6時に集積所まで持っていって、他のゴミ袋の下に押し込んだ。収集車が来るのも確認した。帰宅して鍵をかけて、普通に出勤した。
夜、帰宅。玄関のドアを開ける。
たたきの真ん中。輪を作った状態の、あの首輪。
さすがに声が出た。「は?」って。独り言だったけど、自分の声が妙に響いて余計に怖かった。
部屋の中は何も荒らされていない。窓も閉まっている。鍵も、朝かけたままの状態だった。防犯チェーンもかかっていた。
誰も入れない。入った形跡もない。なのに、首輪だけがそこにある。
この時点で俺は、母親に電話した。「ばあちゃん家の納戸から持ってきた首輪のことなんだけど」と聞いたら、母親は一瞬黙ってから、「ああ、あれね」と言った。
母親の声のトーンが、明らかに変わっていた。
Photo by Nuno Antunes on Unsplash
母親が知っていたこと
A「あれって何なの。捨てても戻ってくるんだけど」
母「…戻ってきた?」
A「うん。2回捨てたけど、2回とも玄関に置いてあった」
しばらく沈黙があった。電話越しに、母親が息を吸い込む音が聞こえた。
母「あんた、あれ持って帰ったの。ばあちゃんから聞いてなかったの」
A「何を」
母「あれはね、もともとうちのものじゃないの。ばあちゃんが若い頃、あの家に引っ越してきた時にはもう納戸にあったの。前の住人が残していったのか、もっと前からあったのか、誰にもわからない」
A「だから何なんだよ」
母「ばあちゃんも昔、一度捨てたことがあるの。そしたら次の日に、台所の土間に置いてあったって」
俺は鳥肌が立った。
母親の話をまとめるとこうだ。祖母は結婚してあの家に入った時、納戸の片隅にその首輪を見つけた。誰のものかわからなかったが、気にせず放置していた。数年後、納戸を整理した際に捨てた。翌朝、台所の入り口に首輪が置かれていた。
祖母はそれを気味悪がって、もう一度捨てた。今度は焼却した、はずだった。が、数日後にやはり納戸に戻っていた。
それからは捨てるのをやめて、納戸の奥にしまったままにしていたらしい。祖母の中では「触らないほうがいいもの」として扱われていた。母親も子供の頃に一度だけその話を聞いて、それきり忘れていたという。
母「だからあんた、それ持って帰ったらだめだったのよ」
A「今さら言うなよ」
母「ばあちゃんに返しなさい。あれはあの家にあるぶんには、まだ大人しいから」
「大人しい」って何だよ、と思った。まるで生き物みたいな言い方だった。
でも母親の言う通り、次の週末に祖母の家まで首輪を持っていった。納戸の元あった場所に戻した。祖母は何も言わなかった。ただ少しだけ、安心したような顔をしていた。
これで終われば、まだよかった。
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置かれる場所が、近づいてくる
11月。首輪を祖母の家に返してから3週間くらい経った頃、母親から電話が来た。
母「ばあちゃんが言ってるんだけど。首輪が納戸から出てきてるって」
A「は?」
母「居間に置いてあったって。今朝起きたら、仏壇の前に」
俺は嫌な汗をかいた。
仏壇の前。納戸じゃない。祖母の話では、前はいつも納戸の中に戻ってきていたはずだ。台所の土間に一度置かれたことはあったが、それ以降は納戸から出てこなかった。それが今度は居間。しかも仏壇の前。
母「ばあちゃんが言うには、あんたが持ち出してから様子が変わったって」
A「俺のせいなの」
母「そうは言ってないけど、今まで納戸の外に出たことは、あの一回だけだったのに」
12月。今度は祖母の寝室に置かれていた。枕元だったらしい。祖母は朝起きた時、枕のすぐ横にあの首輪があるのを見て、声も出なかったと言っていた。
年が明けて今年の1月。首輪は祖母の家の玄関に置かれていた。
わかるだろうか。納戸の奥、台所の土間、居間の仏壇前、寝室の枕元、玄関。
場所が、だんだん出口に近づいている。
俺は母親に、「もしかして、こっちに来ようとしてるんじゃないか」と言った。母親は何も答えなかった。答えたくなかったんだと思う。
3月。祖母から直接電話があった。祖母が俺に直接電話してくるのは珍しい。
「Aちゃん、首輪がね、門の外に出てたよ」
門の外。敷地の外。
つまり、祖母の家から出た。
俺は週末に祖母の家に行って、首輪を納戸に戻した。でも正直、もう納戸に戻しても意味がないんじゃないかと思っていた。
Photo by Christian Thöni on Unsplash
名前のないプレートが意味するもの
俺は自分なりに調べた。あの首輪が何なのか。ネットで「呪物 首輪 戻ってくる」とか検索したけど、似た話は見つからなかった。
一つだけ気になったのは、名前のプレートのことだ。犬の首輪には、飼い主の名前や犬の名前を彫る金属板がついているものがある。あの首輪にもそれがある。でも、何も刻まれていない。つるつるの銀色のまま。
祖母に聞いた。「最初から何も書いてなかったの」
祖母「最初から何もなかったよ。名前のない首輪だねえ、って、おじいちゃんが言ってたような気がする」
名前のない首輪。
祖父が生きていた頃から、その呼び方をされていたらしい。つまり祖父もあの首輪の存在を知っていた。知っていて、名前をつけなかった。いや、名前をつけられなかったのかもしれない。
俺は地元の図書館で郷土史を少し調べた。祖母の家がある集落には、昔、野犬の群れが出て困った時期があったらしい。明治から大正にかけての話で、村で野犬狩りが行われたという記録が残っていた。捕まえた犬を処分する際に、首輪をつけていた犬は飼い犬として見逃されたが、首輪のない犬は殺処分されたと書いてあった。
だとしたら、あの「名前のない首輪」は何だ。首輪はあるのに、名前がない。飼い主がいたのか、いなかったのか。つけられていた犬は助かったのか、殺されたのか。
答えは出ない。出ないまま、今年の夏が来た。
7月。母親から連絡があった。
母「ばあちゃん家に首輪がないって」
なくなった。祖母の家のどこを探しても、首輪がない。納戸にも、居間にも、寝室にも、玄関にも、門の外にも。
どこにもない。
俺はその日から、毎晩帰宅するたびに玄関を開けるのが怖くなった。
Photo by YANGHONG YU on Unsplash
まだ、来ていない
9月の今日まで、俺の部屋に首輪は現れていない。
でも、怖い。
祖母の家から出ていった首輪が、今どこにあるのかわからない。途中のどこかで止まっているのか。もう俺のアパートの近くまで来ているのか。それとも、もうとっくに建物の中にいて、俺が気づいていないだけなのか。
先週、仕事から帰った時、玄関のたたきが少しだけ湿っていた。雨は降っていなかった。窓も閉めていた。靴の裏を見たけど、濡れていなかった。
犬が歩いたら、こういう跡がつくんじゃないか。そう思ってしまった自分が一番怖かった。
あのプレートに名前が刻まれていないのは、まだ「持ち主」が決まっていないからなんじゃないか。祖母でもなく、祖父でもなく、母でもなく。今、それが俺を選ぼうとしているんじゃないか。
考えすぎだと思う。思いたい。でも、もし明日帰宅して、玄関に輪を作った赤い首輪が置かれていたら、俺はどうすればいいんだろう。
アレが何なのか、知っている人がいたら教えてほしい。名前のない首輪。捨てても戻ってくる首輪。置かれる場所が、年ごとに、持ち主に近づいてくる首輪。
長文失礼しました。読んでくれた人、ありがとう。
何か進展があったら、また書きに来ます。来れたら。
Photo by Matt Palmer on Unsplash
もっと深く知りたい人向け
呪物や「戻ってくるモノ」にまつわる怪談、実話系の恐怖体験に興味がある人には、以下の本をおすすめしたい。
松村進吉『現代怪談 地獄めぐり』(竹書房文庫)は、投稿型の実話怪談を集めたシリーズで、日常に入り込んでくる異物の話が多い。読んでいて「これ自分にも起きるんじゃないか」と思わせる温度感がある。
同じく松村進吉らによる『「超」怖い話』シリーズ(竹書房文庫)は、実話怪談の定番中の定番。短い話が多いので、通勤中や寝る前にぱっと読めるけど、読んだ後に部屋の隅が気になるようになる。
福澤徹三『忌み地』(角川ホラー文庫)は、土地や建物に紐づいた怪異を扱った実話怪談集。「場所に残るもの」という観点では、今回の首輪の話と通じるものがあるかもしれない。
黒木あるじ『拾い子 怪談実話系』(MF文庫ダ・ヴィンチ)は、拾ったもの、持ち帰ったものにまつわる怪談を集めている。持ち帰ってはいけないものの話を読むと、納戸から首輪を持ち出した俺の判断がいかにまずかったか、よくわかると思う。
関連記事: 呪物にまつわる怪談まとめ
本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。
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