若狭の宿で履物を揃え直さなかった朝、玄関に誰のものでもない足跡が残っていた話
平成十年の夏、隣家の老婦人を六十年ぶりの生家へ送った帰り道。内陸の我が家の玄関に、あるはずのない白い海砂の足跡が続いていた。
平成十年の夏、隣家の老婦人を六十年ぶりの生家へ送った帰り道。内陸の我が家の玄関に、あるはずのない白い海砂の足跡が続いていた。
国鉄保線区の用地境界柵の外側だけ草が伸びない。境界杭の外に残る内向きの素足の跡。五年ごとに塗り潰される確認者欄の意味とは。
炭鉱の札場で木札を数えていた男が六十年間誰にも言えなかった、番号のない釘と黒い札の話。
平成十二年の冬、叔父に連れられた奥会津の廃湯屋。雪だけが積もらないその場所で、黒電話が繰り返した言葉の意味とは。
繭が一粒も減らない釜から、検尺器が十万メートルを超えても終わらない糸が出続けた。昭和の製糸場で語られた怖い話。
平成五年の台風直後、丹後の集落で損害調査員が遭遇した「存在しないはずの一戸」をめぐる不可解な記録。
昭和四十四年、日向の山奥で見た夜神楽。番付にない三十四枚目の面を被った「誰か」と、毎晩一つずつ足りなくなる握り飯の記憶。
平成十二年の冬、東北の山奥の湯治宿。引いてはならない留め湯が持ち出された朝から、すべてがおかしくなった。
昭和六十三年、城石の切り出し跡が残る無人島で記録調査に参加した写真係が体験した、綱と残念石にまつわる恐怖。
名を告げずに火を借りた夜、甘い匂いだけが残り、柱の傷が一本増えていた。四国の在に伝わる禁忌の話。
乗合バスの運転手が語る、地名を失った停留所と、そこで扉を開けた十七歳の車掌の記憶。
昭和51年、城下町の電話局に就職した投稿者が、空き番号の度数計だけが毎月七ずつ増える異常に気づく。やがてロッカーの数も、写真の人数も合わなくなっていく。
昭和の遠洋漁船で夜の見張りに立っていた男が体験した、潮の止まった並行世界の港町。貝と珠を渡してきた漂着民の正体とは。
巡回映写技師が有明海沿いの干拓集落で開いた野外上映会。癖で数えた観客の頭が、村の人数より三つ多かった。
深夜番組のために廃鉱で一晩の無音を録音した。だが翌朝、テープには喋らなかったはずの自分の返事が入っていた。
昭和四十四年、信州の山村に赴任した保健婦が目にした「木守り」なき柿の木と、水を落としたはずの棚田に立つ人影の記録。
雪深い越後の分校に赴任した教師が明け方に聞いた掃き音。名簿に増えた一人、数の合わない扉。子どもだけが知る「ハキサマ」の正体とは。
消えゆく山あいの集落で子守唄を集めていた学芸員が、霧の森で遭遇した体験。古老が語る「還された子」の意味とは。
たたら製鉄で栄えた山奥の谷。禁忌の石塚に触れた測量技師が体験した、今も残る左手の冷たさと黒い口の記憶。
市史編纂のため山あいの町に赴任した男が、禁忌の木札を写真に撮ってしまった夜から始まる、窓を引っ掻く女の怪異。
平成六年の夏、母の故郷の漁村で見つけた「凪番」という役職。凪いだ晩に海から来るものに振り向けば二度と戻れない。
国有林の境界調査中に杣人から告げられた禁忌。額に縦目を持つ「片目様」に魅入られた者は二度と戻らないという。
昭和の山奥で測量技師が聞いた鏡淵の禁忌。のぞけば名を取られるという言い伝えを破った三人の、静かすぎる顛末。
峠道で紫の霧に包まれた薬売りが迷い込んだ、地図に載らない盆地の村。止まった時計、季節外れの稲穂、提灯を持つ少女の眼差し。
昭和の古い映画館。閉館後の客席から夜ごと響く大勢の笑い声。扉を開けた先にいたのは、白いスクリーンを見つめる満員の「客」だった。
昭和の終バスを走らせた若い運転手が峠で拾った乗客。湖底に沈んだ村へ帰りたいと言う女を乗せた夜、同じ標識に何度も戻る道が続いた。
谷あいの温泉宿で四十二年。雨の夜だけ濡れる鍵、渡り廊下を渡る塗り下駄の音、閉ざした離れに灯る行灯。仲居が語る最後の秋の記憶。
山あいの廃校を訪ねた老人が見た、止まらない柱時計と写真にだけ増えた机。あの子らはどこへ帰るのか。
配置薬の行商人が泊まった谷あいの旧庄屋。灯のともらない中二階へ夜ごと運ばれる一人分の膳。その先にいた「何か」の記録。
昭和のダム計画で水没予定の村を調査中、溜池の底にある石蓋を開けてしまった男が体験した、取り返しのつかない夜の記録。
虫送りの実盛さまを川へ送る夜道、背後にもうひと組の足音が鳴った。振り返れぬまま辿り着いた先で、藁人形の顔に描かれていたもの。
昭和四十三年、養蚕の村へ嫁いだ女性が桑畑の土塀の上に見た白い長身の女。からりと鳴る音の正体と、四つ辻の石仏が語る禁忌。
木曽の山あいの分校で代用教員が体育倉庫の脇に見つけた藤の編み籠。中に眠っていた赤子の瞳には白目がなかった。五十年越しの回想。
入るなと言われた洞窟に踏み入った民俗学の院生たち。四十年後、書店主が語る砂利を踏む音の正体とは。
霧の古道で出会った着物姿の老婆と、数十年前に焼失したはずの茶店。一夜の体験が祖母の血筋と結びついた不思議な記録。
四国の山奥に伝わる「夜行さん」。深夜に出歩く者を攫うとされる存在の目撃談がオカ板に投下され、スレは騒然となった。
祖母の村に祀られていた「カンノン様」。大人たちが頑なに隠す仏様の正体を探るうち、投稿者は取り返しのつかない場所に踏み込んでいた。
田舎の祖母に呼ばれて参加した祭。だが周囲の大人たちは何かを隠していた。あの夜の真相を、俺はまだ理解できていない。
岡山の山間集落で囲炉裏の火番を任された投稿者が三晩で体験した、説明のつかない出来事の記録。

2009年、オカルト板に投下された山中の怪異体験スレ。祖父の山で遭遇した「ヒサルキ」の正体とは何だったのか。
漆職人の師匠が入院した夜から、密室の工房で椀が一つずつ仕上がっていく。扉の前に毎朝こぼれる白い粉の正体は。
大正初期、京橋の書画屋三階で開かれた怪談会。正体不明の男が語った幕末の志士の最期、そして消えた後に残った潮の匂いの意味とは。