世界怪奇録
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深夜2時57分の三分間|番組表にない録音に声が入っていた話

コミュニティFMの当直中、番組表に存在しない三分間の録音にだけ低い声が混じっていた。当直日誌の人数欄はいつも「2」だった。

深夜2時57分の三分間|番組表にない録音に声が入っていた話
Photo by AMONWAT DUMKRUT on Unsplash

ブースの中にいたのは、本当に俺だけだったのか

自分は霊感とかまったくない人間なんですが、これだけはどうしても説明がつかないまま何年も経ってしまったので、書きます。

もう時効だと思うし、局も今はなくなっているので。場所はぼかしますが、地方のコミュニティFMです。出力は小さくて、市内の半分くらいしかカバーしてない、よくある小さな局。俺はそこで当直のバイトをしていました。

当直って言っても大したことはしない。深夜帯は自動送出っていって、あらかじめ組んであるプログラムが勝手に流れていくので、基本的にはブースの横の仮眠室で寝てるだけ。異常があったら起きて対応する、それだけの仕事です。

長文になると思います。文章もうまくないので読みにくかったらすみません。でも、できるだけ正確に書きたいので、細かいところまで書かせてください。

small radio station control room night Photo by Memorialman (CC BY-SA 4.0) via Wikimedia Commons

深夜2時57分から3時00分までの「空白」

コミュニティFMの放送って、24時間やってるところとそうでないところがある。俺がいた局は一応24時間だったんだけど、深夜帯はほぼ音楽の自動送出。番組表を見ると、1時から5時まではずっと「ミュージックセレクション」みたいな名前の枠が入ってる。

ただ、放送の裏側には番組表に載らない「隙間」がいくつかある。

たとえば正時をまたぐとき、時報の前後に数秒の空きがあったり。あるいは番組と番組のつなぎに、局のジングルやフィラーが入ったり。そういうのは一般のリスナーには意識されない。聴いてる側からすれば途切れなく放送が流れているように聞こえる。

で、俺がバイトを始めて二週間くらい経った頃。当直業務の引き継ぎで、先輩から一つ、変なことを教えられた。

「2時57分から3時ちょうどまでの三分間、確認用の録音が入るから、翌朝それを再生してチェックしてくれ」

確認用録音。要するに、送出系統がちゃんと動いてるかを確認するためのテスト的な録音らしい。番組表には載らない。リスナーの耳には届かない。局内の機材が自動的に録って、自動的に止まる。翌朝、当直の人間がそれを再生して、異常がなければ日誌に「異常なし」と書く。それだけ。

先輩はそれ以上のことは何も言わなかった。「面倒だけど、やっといてね」くらいの温度だった。

最初の数回は何も気にならなかった。朝6時に起きて、ブースの録音機材を操作して、三分間の音声を再生する。聞こえるのはほぼ無音。かすかにホワイトノイズが乗ってるだけ。異常なし。日誌に書く。それで終わり。

ただ。三回目か四回目の当直のときだった。

old reel tape recorder dark room dust Photo by Alexey Iskhakov on Unsplash

聞こえるはずのない、低い声

その日も同じ手順で再生した。6時過ぎ、まだ薄暗いブースの中。ヘッドホンをつけて録音を流す。

最初の一分半くらいは、いつも通りのホワイトノイズ。

二分を過ぎたあたりで、何か聞こえた。

最初は機材のハム音かと思った。低い、ブーンという連続音。でも、少し耳を澄ませると、それは連続音じゃなかった。途切れている。不規則に途切れている。

人の声だった。

男の声。低い。何を言っているのかは分からない。ぼそぼそと、何かを読み上げているような、あるいは独り言のような。音量は極端に小さくて、ヘッドホンのボリュームを上げないとほとんど聞こえないレベル。でも確実に、声だった。

俺は一瞬、自分の聞き間違いかと思って巻き戻した。もう一度再生する。同じ。二分過ぎから、低い男の声がぼそぼそと入っている。三分ちょうどで録音が切れると同時に、声も消える。

背筋がぞわっとした。というか、怖いというよりは混乱した。

この録音は、送出系統の確認用だ。つまり、放送に乗っている音を録っている。でも深夜2時57分の放送内容は音楽の自動送出のはず。人の声が入る理由がない。しかもこの声は音楽に被さっているのではなく、音楽がフェードアウトした「隙間」のなかに、ぽつんと存在していた。

まるで、三分間だけマイクが生きていて、ブースの中の音を拾っているかのように。

でもブースには誰もいない。俺は仮眠室にいた。仮眠室とブースは扉一枚で仕切られていて、扉を開けなければブースには入れない。扉を開ければ分かる。ギイッと古い蝶番が鳴るから。

俺はその夜、一度も扉を開けていない。

日誌に「異常なし」と書いた。書いてしまった。なぜかそう書いた方がいい気がした。

📺 関連映像: 深夜ラジオ 怪奇現象 放送局 怖い話 — YouTube で検索

当直日誌の「人数」の欄

気になり始めると、止まらなくなる。

次の当直のとき、俺は意識してあの三分間の録音を聴いた。やはり声が入っていた。前回と同じ。低い男の声。何を言っているかは分からない。ただ、前回よりほんの少しだけ、音量が大きくなっている気がした。気のせいかもしれない。でもそう感じた。

それから、当直のたびに録音を注意深く聴くようになった。声は毎回入っていた。一度も欠かさず。音楽の自動送出が一瞬途切れる深夜2時57分から3時00分の三分間にだけ、低い声が現れる。

ある晩、俺は試しに2時50分にアラームをかけて起きた。2時55分にそっと仮眠室の扉を開けて、ブースを覗いた。

誰もいなかった。当たり前だ。

機材のランプが暗闇の中で点滅しているだけ。送出用のPCのモニターが青白く光っている。空調の低い音。コーヒーの匂いがかすかに残っている。それだけの空間。

俺はブースに入って、椅子に座った。2時57分になるのを待った。

57分になった。録音が自動で始まる。赤いランプが点灯する。

三分間、俺はじっとブースの中にいた。何も聞こえなかった。自分の呼吸音と、空調のかすかな音だけ。声なんてどこにもない。

翌朝、その録音を再生した。

俺の呼吸音が入っていた。椅子がきしむ音も入っていた。そして、それに重なるようにして、あの低い声が入っていた。

俺がブースにいたのに。俺のすぐそばで、誰かが喋っていた。

その瞬間、思い出したことがある。当直日誌のことだ。

当直日誌には「当直人数」という欄がある。コミュニティFMの当直は基本一人体制。だから普通は「1」と書く。でも、俺がバイトを始める前からの日誌をめくってみたら、ほとんどの日付で「2」と書いてあった。

誰が書いたのかは分からない。字は毎回違う。いろんな人の筆跡で「2」と書いてある。まるで、当直に入った全員が、何かの理由で「2」と書かなければならなかったかのように。

俺は先輩に聞いた。「当直日誌の人数、なんで2なんですか」

先輩は少し黙って、それから言った。

「ああ、あれね。昔からそうなってるんだよ。理由は知らない。でもまあ、2って書いといて」

それ以上は何も言わなかった。聞いても答えなかった。

empty radio broadcast booth night dim lighting Photo by Fabio Sasso on Unsplash

聴き取れた、たった一つの言葉

俺はその後も当直を続けた。辞めなかった。怖かったけど、それ以上に気になった。あの声が何を言っているのか、知りたかった。

ヘッドホンのグレードを上げた。自分の金で買った、モニター用のやつ。それで何度も何度も、あの三分間を聴いた。巻き戻して、ボリュームを上げて、耳を澄ませた。

ほとんどは聞き取れなかった。低すぎる。こもっている。日本語なのかどうかすら分からない。ただの呻きにも聞こえるし、何かの文章を読み上げているようにも聞こえる。

でも一箇所だけ、はっきり聞き取れた部分があった。

「まだいる」

低い声で、はっきりと、「まだいる」と言っていた。

それが誰に向けて言っているのか。「まだいる」の「いる」が何を指しているのか。俺のことなのか。それとも、声の主自身のことなのか。

分からない。分からないまま、俺はその局を辞めた。引っ越しのタイミングで自然に辞めた。最後の当直の日も、日誌の人数欄には「2」と書いた。

辞めてから数年経って、その局は閉局した。経営難だったらしい。建物も取り壊されて、今は駐車場になっていると聞いた。

あの録音データがどうなったのかは知らない。誰かが持ち出したのか、機材ごと廃棄されたのか。

demolished building empty lot night Japan Photo by Yuya Yoshioka on Unsplash

まだ誰にも話していない理由

ここまで読んでくれた人、ありがとうございます。

なぜ今まで誰にも話さなかったのか。理由は単純で、話したところで信じてもらえないだろうと思ったから。録音データという物的証拠があれば別だけど、俺の手元にはない。全部局の機材の中にあった。持ち出しは禁止だった。

もう一つ。あの声を聴いていた期間、俺自身には何も起きなかった。金縛りも悪夢もない。体調も普通だった。怖い体験をした、というよりは、理屈に合わないものを目撃してしまった、という感覚に近い。だから切迫感がなくて、誰かに相談するタイミングを逃した。

ただ、一つだけ気になっていることがある。

俺が辞める最後の週、録音を聴いたとき、声がほんの少し変わっていた。それまではずっと一人の声だった。低い男の声。一人分の呻くような声。

最後の週、そこにもう一つ、別の声が重なっていた。

前の声より少し高い。少し若い。でも同じように、何を言っているかは分からない。ただぼそぼそと、何かを呟いている。

二人になっていた。

当直日誌の人数は「2」だった。ずっと「2」だった。でも、もしあの数字が、年月とともに増えていくものだとしたら。

局はもうない。建物もない。機材もない。だから確かめようがない。

あの三分間に何が録音されていたのか。あの声は誰のものだったのか。当直日誌の「2」は何を数えていたのか。知っている人がいたら、教えてほしい。

似たような話を聞いたことがある人でもいい。放送局関係者で、深夜の確認用録音に何か入っていた、という経験がある人。もしいたら、ここに書き込んでくれませんか。

俺だけじゃないと分かるだけで、少しは楽になれる気がするので。

出典: 番組表にない確認用録音

もっと深く知りたい人向け

放送局にまつわる怪談や、録音・音声に残る不可解な現象に興味がある方には、以下の本をおすすめします。

『新耳袋 第一夜』(木原浩勝・中山市朗、角川文庫)。投稿型の実話怪談集として金字塔。短い話が百話収められていて、放送関係者や深夜勤務中の体験談も含まれている。この記事の空気感が好きな人なら間違いなく刺さる一冊。

『放送禁止』(長江俊和、角川ホラー文庫)。テレビの放送事故やお蔵入り映像をモチーフにしたフィクションだけど、放送の裏側に潜む「見せてはいけないもの」「流してはいけない音」というテーマが、今回の話と地続きに感じられるはず。

『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』(黒木あるじ、竹書房文庫)。実話怪談の中でも、職場や日常の中に突然現れる不条理を扱った話が多い。怪異が「事件」ではなく「ただそこにある」という温度感が、あの三分間の録音と似ている。


本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。

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