11年間、火星の空を飛び続けた探査機が沈黙した日──MAVENが最後に見た景色
火星周回探査機MAVENが11年の任務を終え沈黙。最後の通信途絶の瞬間と、その生涯を振り返る。

最後の通信は、火星の裏側へ回り込む直前だった
Mは大学からの友人で、今はJAXA関連の仕事をしている。
先日、久しぶりに飲みに行ったとき、Mがビールのジョッキを置いて、妙にしんみりした顔で言った。
M「MAVENが死んだんだよ」
俺は一瞬、誰かの名前かと思った。メイヴン? え、人?
M「火星を回ってた探査機。11年間ずっと飛んでたやつ。去年の12月から連絡が取れなくなって、半年経っても何の反応もないまま、NASAが正式に任務終了を発表した」
そのときのMの表情が、なんというか、友達の訃報を聞いたみたいな顔だった。
俺は宇宙のことなんて全然詳しくない人間なんだけど、Mの話を聞いているうちに、この探査機のことがどうにも頭から離れなくなった。文才もないし長文かも。読みにくかったら許してください。でもMが語ってくれたこと、それから自分で調べたことを、ここに書き残しておきたいと思った。
Photo by Chamfjord. on Unsplash
MAVENという名前の探査機のこと
MAVENというのは「Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN」の略で、日本語にすると「火星大気・揮発物質進化探査機」になる。2013年11月に打ち上げられて、2014年9月に火星の周回軌道に入った。
もともとの運用予定は1年間だった。たった1年。
それが蓋を開けてみれば、11年も火星の空を飛び続けた。
MAVENの本来のミッションは、火星の大気がどうやって宇宙空間に逃げ出していくのか、そのメカニズムを調べることだった。火星にはかつて分厚い大気があって、液体の水が地表を流れていた時代があるとされている。でも今の火星は大気が薄く、気圧は地球の約100分の1しかない。あの赤い惑星は、数十億年の間に大気のほとんどを失ってしまった。
なぜ失われたのか。太陽風に剥ぎ取られたのか。紫外線で分解されて散逸したのか。MAVENはその謎を解くために送り込まれた。
Mが教えてくれたのだが、MAVENの観測データから、火星の大気は太陽風によって今もなお宇宙へ剥ぎ取られ続けていることが確認された。太陽活動が活発になると、大気の流出速度が10倍から25倍にまで跳ね上がるという。
M「つまり火星は、今この瞬間も少しずつ裸にされてるってこと。MAVENがそれを証明した」
1年で終わるはずの任務。でもMAVENはその後も飛び続けた。本来の大気観測に加えて、火星の地表で働く探査車たちの通信中継という、いわば「郵便配達人」の役割も担うようになった。キュリオシティやパーサヴィアランスといったローバーたちが見つけた成果を、地球に送り届ける。地上と宇宙を結ぶパイプ役を黙々とこなしていた。
Photo by NASA Hubble Space Telescope on Unsplash
2025年12月6日、沈黙
2025年12月6日のことだった。
MAVENは火星の裏側、つまり地球から見えない側へ回り込んだ。周回探査機にとっては日常的な動きで、火星の裏を通過すればまた表に戻ってくる。通信が一時的に途絶えるのは想定内のことだった。
ところが、MAVENは戻ってこなかった。
予定の時刻を過ぎても信号がない。1時間。2時間。NASAの運用チームは回復コマンドを送り続けた。翌日も、翌週も。年が明けても。
M「宇宙機の通信が途絶えるって、想像以上に怖いことなんだよ。電話が繋がらないとかそういうレベルじゃない。何億キロも離れた場所で、何が起きてるかまったく分からないまま、ただ信号を送り続けるしかない」
半年が経った。NASAは2026年6月3日、MAVENの任務終了を正式に発表した。つい数日前のことだ。
原因として推測されているのは、探査機の姿勢制御に使う燃料の枯渇。MAVENは周回軌道を維持するために定期的にスラスターを噴射する必要があったが、11年という想定外の長期運用で燃料が底をついた可能性が高いとされている。燃料がなくなれば姿勢が制御できなくなり、太陽電池パネルが太陽の方向を向けなくなる。電力が途絶え、通信が途絶え、ただの金属の塊として火星の重力に引かれていく。
M「最後に何を見てたのかな、って思うよ。火星の大気か、宇宙の暗闇か。カメラが付いてるわけじゃないから、見てたっていう表現は正確じゃないけど。でもセンサーが最後に拾ったデータが何だったのか、もう誰にも分からない」
📺 関連映像: MAVEN 火星探査機 任務終了 NASA — YouTube で検索
11年間で見えてきたもの
MAVENがいなくなったことで、改めてこの探査機が残した成果の大きさが浮かび上がってきている。
まず、火星の大気散逸メカニズムの解明。太陽風が火星の磁気圏に与える影響を直接測定し、大気中のイオンが宇宙空間に引きずり出される過程を詳細に記録した。これは火星の過去の気候を復元するための基礎データになった。
次に、火星のオーロラの発見。地球のオーロラは極地方に限られるが、MAVENは火星では惑星全体にわたる「拡散オーロラ」が発生することを突き止めた。火星には地球のような全球的な磁場がなく、地殻に残る局所的な磁場と太陽風の相互作用でオーロラが生まれる。火星の夜空が緑色に光る瞬間がある。それを最初に捉えたのがMAVENだった。
そして通信中継としての功績。NASAによると、MAVENは火星地表の探査車との間で7000回以上のデータ中継セッションをこなしたとされている。キュリオシティが撮影した岩石のクローズアップ写真も、パーサヴィアランスが採取した土壌サンプルの分析結果も、その多くはMAVENを経由して地球に届けられた。
M「探査車が主役で、MAVENは裏方。でも裏方がいなかったら、どんな大発見も地球には届かなかった」
俺はその話を聞きながら、なんとなく、田舎の郵便局員のことを思い出していた。どんな山奥にも手紙を届けに来る、あの人たちのこと。MAVENは火星と地球の間を結ぶ、途方もなく孤独な郵便配達人だったんだな、と。
火星の空に残るもの、地球から見えないもの
MAVENの任務終了によって、火星周回軌道で稼働している探査機の数が減った。現在も火星を周回しているのは、NASAのマーズ・リコネサンス・オービター(MRO、2006年から運用)とオデッセイ(2001年から運用)、ESAのマーズ・エクスプレス(2003年から運用)、そしてインドのマンガルヤーン2号などだが、MROもオデッセイも20年選手で、いつ同じように沈黙してもおかしくない。
火星の通信インフラは、思っている以上に脆い。
Mはこうも言っていた。
M「MAVENが死んだことで、火星との通信帯域が目に見えて狭くなる。今後の探査計画、特にサンプルリターンとか有人火星探査の計画にも影響が出るかもしれない」
考えてみれば不思議な話だ。地球から火星までの距離は、最も近いときで約5500万キロ、遠いときで約4億キロ。光の速さでも片道3分から22分かかる。その途方もない距離を隔てて、MAVENは11年間、律儀に信号を送り続けていた。
最後の日、火星の裏側に回り込む瞬間、MAVENのセンサーは何を記録していたのだろう。太陽風に晒される火星上層大気の微かなイオンの揺らぎか。それとも、もう燃料が尽きかけていることを示す、姿勢のわずかなブレか。
そのデータは地球には届かなかった。火星の裏側に沈んだまま。
俺は宇宙のことはほんとに素人なんだけど、この話を聞いてから夜空を見上げるたびに、あの赤い点のあたりを無意識に探してしまう。あそこに、もう応答しない機械が今もぐるぐる回っているのかと思うと、なんというか、怖いとは違う。寂しい、のほうが近い。
Photo by Zoltan Tasi on Unsplash
何が分かっていて、何が分かっていないか
分かっていること。MAVENは2025年12月6日を最後に通信が途絶えた。半年間の回復試行の末、2026年6月3日にNASAが正式に任務終了を発表した。原因は姿勢制御用燃料の枯渇が有力とされている。11年間の運用で火星大気の散逸メカニズム、火星オーロラ、太陽風の影響など数多くの科学的成果を残し、7000回以上の通信中継を行った。
分かっていないこと。MAVENが最後に取得したデータの内容。通信途絶の正確な瞬間に何が起きたか。機体が現在も火星周回軌道上にあるのか、それとも既に軌道を外れて火星大気圏に突入したのか。
Mは最後にこう言った。
M「探査機って、人間が作ったものの中で一番遠くまで行って、一番長く一人で働いて、一番静かに死ぬものだと思う」
俺はその言葉がずっと引っかかっている。
長文読んでくれた人、ありがとう。Mにもこのスレの話はしてある。もし宇宙関係の仕事してる人とか、MAVENの話に詳しい人がいたら、補足とか教えてくれると嬉しい。
出典: カラパイア
もっと深く知りたい人向けの本
MAVENの話をきっかけに火星探査のことをもっと知りたくなった人へ、いくつか本を挙げておく。
『火星の歩き方』(臼井寛裕・宮本英昭/光文社新書)は、火星の地形や大気、水の歴史について日本の研究者が分かりやすくまとめた一冊。MAVENの観測成果に触れている箇所もある。
『宇宙に命はあるのか』(小野雅裕/SBクリエイティブ)は、NASAのJPLで働く日本人エンジニアが書いた本で、探査機を送り出す側の人間の思いが伝わってくる。MAVENのような無人探査機がなぜ「生きている」と感じられるのか、その感覚の正体に近づける気がする。
『火星で生きる』(スティーブン・ペトラネック/TEDブックス)は、人類が火星に移住する未来を真剣に論じた本。MAVENが調べた大気散逸のデータが、将来のテラフォーミング計画にどう関わるかを考えるヒントになる。
本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。
📚 この記事で紹介した書籍
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火星の歩き方
臼井寛裕・宮本英昭 / 光文社新書
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宇宙に命はあるのか
小野雅裕 / SBクリエイティブ
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火星で生きる
スティーブン・ペトラネック / TEDブックス
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