世界怪奇録
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2026-05-31その他

砂に沈んだ探査車は二度と帰らない。ドイツの研究者がトカゲに見た「火星を泳ぐ」という発想

火星の砂地獄に沈んだ探査車の悲劇。ドイツの研究チームが砂漠のトカゲから着想を得た新型ローバーの話が、どこか生き物じみていて不気味だった。

砂に沈んだ探査車は二度と帰らない。ドイツの研究者がトカゲに見た「火星を泳ぐ」という発想
Photo by カラパイア on Unsplash

誰にも看取られず、砂に呑まれて死んだ機械の話

去年の冬、深夜にNASAの公式サイトを眺めていたときのことだった。

俺はオカルトとか宇宙系のまとめサイトを巡回するのが趣味の人間で、霊感もゼロだし超常体験もない。ただ、あの夜ひとつの記事を読んで、背筋がすうっと冷えた感覚だけは今も覚えている。

火星探査車「スピリット」の最期を記録したページだった。

2009年、火星のトロイ台地と呼ばれる場所で、スピリットは柔らかい砂地にタイヤを取られた。地球から何百もの指令が送られ、タイヤの角度を変え、ほんの数センチでも動かそうと試みたが、車体はゆっくりと沈み続けた。数か月に及ぶ救出作戦は実を結ばず、2010年3月、NASAはスピリットとの通信を断念した。最後に届いた信号は、バッテリー残量の低下を告げるものだったという。

火星で「砂にはまる」とは、地球のぬかるみとは訳が違う。助けに来る人間は誰もいない。砂に沈んだ機械は、文字通り二度と帰らない。

この話を思い出したのは、ドイツの研究チームが発表した新型火星探査車のニュースを見たときだ。砂漠のトカゲの動きを真似て、砂の中を「泳ぐ」ように進む探査車。ナニソレ、と思った。トカゲ。泳ぐ。火星で。長くなるかもしれないけど、調べたら面白かったので書いてみます。文才ないので読みにくかったらごめん。

mars rover tracks red desert sand dark mist Photo by Christian Lischka SJ on Unsplash

サンドフィッシュという名前のトカゲがいる

まず「サンドフィッシュ」の話から。

北アフリカのサハラ砂漠に、スキンク科に属する小さなトカゲがいる。学名は Scincus scincus。体長15センチほどの、見た目はごく普通のトカゲなんだが、こいつの移動方法がちょっと常識外れで。砂の上を走るのではなく、砂の中に潜って、まるで水中を泳ぐみたいに砂中を移動する。

体をくねらせて、砂粒の間に滑り込んでいく。滑らかな鱗が砂との摩擦を極限まで減らしていて、潜った瞬間にはもう砂の表面に跡すら残らないことがある。砂漠の民がこのトカゲを「砂の魚」と呼んだのは、見たそのままの印象だったんだろう。

面白いのは、こいつの鱗の構造だ。電子顕微鏡で見ると、鱗の表面にはナノメートル単位の微細な段差が規則的に並んでいて、これが砂粒との接触面積を最小限にしている。結果として、鱗はほとんど摩耗しない。サハラの砂の中を何千回と泳いでも、体表が削れていかない。生き物の設計としてちょっと出来すぎている気がするが、数千万年かけた進化の産物だと言われれば、まあそうかと思うしかない。

ドイツのヴュルツブルク大学の研究チームは、このサンドフィッシュの動きに注目した。火星の砂に沈んだ探査車を救う方法を考えていたのではなく、そもそも「沈まない」「沈んでも抜け出せる」探査車を作れないかと考えた。発想の転換というやつだ。沈むことを恐れるのではなく、砂の中を泳いでしまえばいい。

sand lizard desert surface macro dark mist Photo by Evan Karageorgos on Unsplash

車輪をやめて、脚にした

ヴュルツブルク大学のチームが開発した試作機の写真を初めて見たとき、正直なところ「キモい」と思った。申し訳ないけど。

従来の火星探査車は、6つの車輪で走る。キュリオシティもパーサヴィアランスもそうだ。だがこの新型は、車輪の代わりに脚を持っている。しかもその脚の動かし方が独特で、前に踏み出すのではなく、砂を「掻く」ように横方向の力を使って体を押し進める。サンドフィッシュが砂中で体をくねらせる動きを、機械的に再現した構造になっている。

具体的にはこうだ。脚の先端にはスコップのような平たいパーツがついていて、これが砂を後方に押しやる。同時に、脚全体がサンドフィッシュの鱗のように低摩擦の素材でコーティングされている。砂に沈んだ状態でも、脚を特定のパターンで動かすことで、車体を砂の上に「浮き上がらせる」ことができるという。

研究チームのテストでは、従来型の車輪式ローバーが完全にスタックする砂地で、この脚式ローバーは自力で脱出できたと報告されている。

俺がこの話を読んでゾワッとしたのは、その動きの映像を見たときだった。ホントに生き物みたいなんだよ。砂の中からもぞもぞと這い出してくる様子が、なんというか、虫とか甲殻類とか、そういう生き物の動きそのもので。火星の赤い砂の上をあれが動いている光景を想像したら、なんとも言えない気持ちになった。

人間が誰もいない惑星の砂漠を、トカゲの動きを真似た機械が、ひとりで這い回っている。SF映画のワンシーンならかっこいいと思えるかもしれないけど、実際の映像で見ると、なんだろう、寂しさみたいなものが込み上げてくる。

📺 関連映像: 火星探査車 スタック 砂 脱出 — YouTube で検索

スピリットの最期を思い出す

ここで最初に書いたスピリットの話に戻る。

2004年に火星に着陸したスピリットは、当初のミッション期間90日間をはるかに超えて、6年近くも火星を走り続けた。設計寿命の20倍以上だ。太陽光パネルに積もった砂を火星の風が吹き飛ばしてくれるという幸運もあり、何度もピンチを乗り越えてきた。

しかし2009年5月、柔らかい地表に右前輪がめり込んだ。NASAのジェット推進研究所のエンジニアたちは、地球上に火星の砂を模した試験場を作り、同型のローバーで脱出方法をシミュレーションした。角度を変え、速度を変え、回転方向を変え、あらゆるパターンを試した。9か月間にわたって。

結果は、失敗だった。

火星の土壌は場所によって性質がまったく異なる。スピリットがはまった場所は、表面こそ固そうに見えたが、薄い地殻の下に柔らかい硫酸塩の砂が広がっていた。地球で言えば、凍った湖の上を歩いていたら氷が割れて落ちたようなものだ。一度沈んだら、車輪を回せば回すほど、砂を掘ってさらに沈む。

あの時にもし、車輪ではなく脚があったら。サンドフィッシュのように砂を掻き分けて這い出す機能があったら。スピリットはまだ動いていたかもしれない。もちろん、バッテリーや他の部品の寿命もあるから単純な話ではないけれど、少なくとも砂に沈んで動けなくなるという最期は避けられた可能性がある。

abandoned rover desert dust lonely Photo by Jay Miller on Unsplash

生き物に学ぶ技術は、どこか薄気味悪い

バイオミメティクスという言葉がある。生物模倣技術。生き物の体の構造や動きを真似て、人間の技術に応用する分野だ。

有名な例だと、新幹線500系の先頭形状はカワセミのくちばしを参考にしている。ヤモリの足の裏の微細構造を模倣した粘着テープもある。蓮の葉の撥水構造を応用したコーティング剤もある。どれも「自然はすごい、よくできている」という文脈で語られることが多い。

でも俺は時々、この分野にうっすらとした不気味さを感じることがある。これは完全に俺個人の感覚で、科学的に根拠がある話じゃないんだけど、聞いてほしい。

生き物の動きを機械に移植するということは、その生き物の「意図」のない動きを、人間の「意図」で再現するということだ。サンドフィッシュは砂の中を泳ぎたくて泳いでいるわけじゃない。捕食者から逃げるため、獲物に近づくため、体温を調節するため。生存のための動きだ。その動きだけを抜き取って、火星で這い回る機械に移植する。

動きだけが、意識のない金属の体で再現される。

深夜にそういう映像を見ていると、ふとした瞬間に、あの機械が本当に「生きている」ように見えてしまうことがある。砂から這い出す脚の動き。方向を変える時の、一瞬の停止。まるで考えているみたいに見える。考えてないんだけど。

これは俺の気持ち悪がりすぎかもしれないし、そもそもオカルトでも何でもない話なんだけど、火星の砂漠を一人で這い回るトカゲ型ロボットの映像は、深夜に見るもんじゃないなと思った。

余談だけど、ヴュルツブルク大学のチームはサンドフィッシュの研究を10年以上続けているらしい。トカゲ一匹の動きを何年も何年も観察して、計測して、数式に起こして、機械で再現する。その執念も、どこか人間離れしている気がする。

dark laboratory equipment dim light Photo by Ehsan Eslami on Unsplash

火星の砂は地球の砂と違う

ここでひとつ補足しておきたいのが、火星の砂の話。

火星の表面を覆っているレゴリスと呼ばれる土壌は、地球の砂とはかなり性質が違う。まず、粒子が極めて細かい。地球の砂浜の砂よりもずっと細かく、小麦粉に近いような粒度のものもある。そして火星の重力は地球の約38%。つまり、砂粒一つ一つが軽い。

この組み合わせが厄介で、車輪が砂を踏むと、地球なら圧縮されて固まるはずの砂が、火星では軽すぎてまとまらない。車輪の下でサラサラと流れてしまう。雪の上を歩いているようなものだが、雪よりもっと掴みどころがない。

さらに、火星には水がほとんどない。地球の砂は水分を含んでいるから、ある程度の粘着力がある。砂の城が作れるのは水分のおかげだ。火星の砂は完全に乾燥しているので、一切固まらない。永遠にサラサラしている。

こういう環境で車輪を回すのは、そもそも無理があったのかもしれない。サンドフィッシュ型の脚式ローバーが注目されているのは、車輪という発想自体が火星には向いていなかった可能性を示唆している。

ただし、脚式にも課題はある。機械的に複雑になるため、故障リスクが高い。火星には修理に行ける人間がいないから、壊れたらそれまでだ。車輪式が長年採用されてきたのは、構造がシンプルで壊れにくいという利点があったからでもある。結局のところ、どちらを取るかというトレードオフの問題なんだろう。

red rocky desert barren landscape dust dark mist Photo by Yuheng Ouyang on Unsplash

何が分かっていて、何が分かっていないか

ヴュルツブルク大学の新型ローバーは、あくまでまだ試作段階だ。地球上のラボで火星の砂を模した環境でテストされている段階で、実際に火星に送り込まれる予定は、少なくとも報じられている範囲では確認できていない。

分かっていること。サンドフィッシュの動きを模倣した脚式移動メカニズムは、砂地でのスタックに対して従来の車輪式より優位性がある。低摩擦の表面コーティングと、砂を掻く動作パターンの組み合わせにより、砂に沈んだ状態からの自力脱出が可能。

分かっていないこと。火星の実環境での耐久性。極端な温度変化(昼は20℃、夜はマイナス73℃)に脚の関節機構が耐えられるか。火星の細かい砂塵が関節部に入り込んだときの影響。そして、実際のミッションに採用されるまでにどれだけの時間がかかるか。

俺がこの記事で何を言いたかったのか、自分でもよくわからなくなってきた。火星探査の最新技術の話をしたかったのか、スピリットの最期が切なかったのか、深夜にトカゲ型ロボットの映像を見て気持ち悪くなった話がしたかったのか。

たぶん全部だ。

火星の砂漠に、いつかあのトカゲ型の機械が降り立つ日が来るかもしれない。赤い砂の中を、誰にも見られることなく、もぞもぞと這い回る。通信が途絶えても、砂に沈んでも、今度は自分で這い出してくる。スピリットにはできなかったことを、トカゲの動きを借りた機械がやってのける。

それはたぶん人類の技術の勝利なんだろうけど、俺にはどうしても、火星の砂に一人残された何かの姿に見えてしまう。

長文失礼しました。読んでくれた人ありがとう。アレが生き物に見えるのは俺だけかな。

出典: カラパイア

もっと深く知りたい人向け

火星探査やバイオミメティクスについてもう少し掘り下げたい人には、以下の本をおすすめしておく。

『火星の歩き方』(臼井寛裕・宮本英昭/光文社新書)は、火星の地質や環境を一般向けに解説した本で、探査車がどんな地形と戦っているのかがよくわかる。『生物に学ぶイノベーション』(赤池学/NHK出版新書)は、カワセミ新幹線やヤモリテープなど、バイオミメティクスの事例を幅広く紹介している。より専門的な内容に踏み込みたい人は『バイオミメティクス 生物模倣技術の実際』(シーエムシー出版)が詳しい。どれも、生き物と機械の境界線について考えさせられる一冊だと思う。


本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。

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