世界怪奇録
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2026-05-09その他

深夜の非常階段で点滴台につかまっていた子供の話──看護師が「顔」を語れない理由

夜勤巡回中、窓のない踊り場に立っていた三歳児。点滴台にはシリンジポンプ。先輩ナースが顔だけを語らなかった理由とは。

深夜の非常階段で点滴台につかまっていた子供の話──看護師が「顔」を語れない理由
Photo by Julien on Unsplash

始まりはBさんの夜勤明けの一言だった

自分、看護師やってる者です。

霊感とかゼロ。お化け屋敷も別に平気だし、怖い話のまとめサイトは暇つぶしに読むけど「ふーん」で終わるタイプ。自分がこういうところに書き込む日が来るとは思ってなかった。

先に言っておくと、これは自分が直接体験した話じゃないです。同じ病院で働いてた先輩ナース、仮にBさんとします、Bさんから聞いた話がベースになってる。ただ、自分もその後あの非常階段で似たようなものを感じてるので、完全に他人事でもない。そのへんも含めて書きます。

長文かも。文才もないので読みにくいかもしれません。許してください。あと、病院名とか地域とか特定できる情報はぼかします。まだ普通に稼働してる病院なので。

Bさんは自分より7つ上の先輩で、もう10年以上その病院で夜勤をこなしてるベテラン。口調はさばさばしてて、患者さんにも後輩にも分け隔てなく接する、いわゆる「頼れる姉御」みたいな人。霊だの怪談だのには一切興味がなくて、ナースステーションで誰かが怖い話を始めると「やめなさいよ仕事に集中」って真顔で止めるような人だった。

そのBさんが、ある夜勤明けにぽつっと話し始めた。それがこれから書く内容。

あの病院と、非常階段のこと

あの病院は地方の総合病院で、規模はそこそこ。内科、外科、整形、小児科、産婦人科あたりが入ってる。自分とBさんが勤務してたのは成人の入院患者が中心の病棟で、小児科病棟とはフロアが違う。エレベーターで2階分くらい離れてたかな。

で、病棟には消灯前の巡回ってのがある。病室だけじゃなくて、面談室、エレベーターホール、談話室、当直室、それから非常階段。こういう場所を一通り回って異常がないか確認する。日中でも人通りの少ない場所ばかりだけど、夜はもう完全に別世界になる。

特に非常階段。あそこは窓がない。コンクリートの壁と鉄の手すりだけで出来た、階と階をつなぐだけの通路。空調もほとんど効いてなくて、冬はしんと冷えた空気がたまってる。照明も最低限で、踊り場に影がいくつも重なる。自分の足音だけがやたら反響して、消毒液のにおいが廊下よりもなぜか濃い。鉄っぽいにおいも混じってた。排水管でも近いのか、あるいは手すりの錆のにおいだったのか、それは今もわからない。

Bさんはこの巡回を何年もやってきて、一度も異常なんかなかったと言ってた。

Bさん「正直、非常階段なんて見回る必要あんの?って毎回思ってた」

ルーティンにはルーティンの退屈さがある。でもその退屈さが、一瞬で裂けることがある。Bさんはそのときの声のトーンを少し下げて、次の話に入った。

dark concrete stairwell dim light Photo by Rodion Kutsaiev on Unsplash

踊り場に立っていた子供

Bさんがいつも通り非常階段の扉を開けたとき、下の階との間にある踊り場に人影が見えたそうだ。

こちらに背を向けて立つ小さな子供。たぶん三歳くらい。痩せた体に病衣を着て、点滴台につかまっていた。

ここまでなら「迷子かな」で済む話なんだけど、Bさんが気になったのは点滴台に付いてた機材だったらしい。点滴袋がぶら下がってるだけじゃなくて、シリンジポンプまで装着されていた。

シリンジポンプってのは、点滴ラインに別の薬剤を微量ずつ混注するための精密機械。投与量を厳密にコントロールしなきゃいけない薬に使う。抗がん剤とか、鎮痛目的のオピオイド系薬剤とか。三歳の子供にそれが必要な状況ってのが何を意味するか、医療現場にいる人間ならすぐわかる。Bさんも当然わかってた。

でもそのときは恐怖よりも先に「なんでこんなところに」が来たそうだ。消灯間近の時間に、窓もないコンクリートの壁を向いて黙って立ってる三歳児。付き添いの親もいない。ナースコールで呼ばれた形跡もない。

Bさん「どうしたの? もう消灯になるよ」

階段の上から声をかけた。返事はない。子供は微動だにしない。壁を、ただ見つめてる。

Bさんは踊り場に向かって階段を降り始めた。靴底がコンクリートの段を踏むたびに、乾いた足音が階段室に反響する。子供はまだ動かない。背中越しに見える病衣の皺、点滴チューブが腕につながってる様子。そしてシリンジポンプの電子音すら聞こえない静けさ。あの機械、稼働中は小さいけど一定のリズムで音がするんです。それが無音だった、とBさんは言ってた。

あと数段ってところで、Bさんはふと気づいた。

ここは小児科病棟じゃない。

自分たちが勤務してるのは成人の病棟。小児科は別のフロア。つまりこの子供がここにいること自体、かなりおかしい。深夜、点滴台を引きずって別の階の非常階段まで来る三歳児なんて、普通に考えてありえない。

Bさんがもう一歩踏み出そうとしたとき、子供がゆっくりと首だけをこちらに向けたそうだ。

abandoned hospital corridor night fog Photo by Arthur Mazi on Unsplash

Bさんが語らなかったこと、自分が聞いたもの

ここからが自分にとって一番引っかかってる部分なんだけど、Bさんはその子供の顔を描写しなかった。

「覚えてない」とも「見えなかった」とも言わない。自分が「で、顔は?」って聞いたら、Bさんは少し黙って、それから話題を変えた。天気の話だったかな。あの姉御肌のBさんが、話題をそらしたんです。それが逆にぞっとした。

Bさんが次に語ったのは、ナースステーションに戻ってからのこと。もう一人の先輩、仮にCさんとしますね、Cさんに報告したら、こう返されたそうだ。

Cさん「ああ、あの階段にはたまに出るのよ」

まるで天気の話でもするみたいに。

Cさんによると、以前その病院の小児科病棟に入院してた子供の中に、非常階段をお気に入りの場所にしてた子がいたらしい。病室を抜け出してはあの踊り場に行って、壁を見つめてたと。その子がどうなったのか、Cさんはそれ以上語らなかった。

Cさん「あんまり気にしないほうがいいよ」

その一言だけ。Bさんはそこで話を終えた。

で、ここからは自分の話。

Bさんからこの話を聞いたのが去年の冬、2025年の1月だったんだけど、そのあと自分も消灯巡回であの非常階段を通ることになった。何も見たくないな、と思いながら扉を開ける。何もいない。当たり前だ。そんなことが何週間か続いた。

ある夜、いつも通り扉を開けたとき、踊り場の空気が明らかに冷たかった。冬だから当然だろって言われればそれまでなんだけど、それまでの巡回とは明らかに質が違う冷え方だった。冷凍庫を開けたときみたいな、肌を刺すような冷気。そして消毒液のにおいの奥に、甘いような、薬品っぽいにおいが混じってた。

踊り場には誰もいなかった。いなかったんだけど、階段を降りようとしたとき、下のほうからかすかに音が聞こえた。金属が床を転がるような、小さな、規則的な音。点滴台のキャスターが動く音に、すごく似ていた。

自分はそのまま扉を閉めて、廊下に戻った。確認しに行かなかった。行けなかった、が正しいかもしれない。

ナースステーションに戻ってBさんの顔を見たら、Bさんは何も聞いてないのに「聞こえた?」とだけ言った。自分がうなずいたら、Bさんは「だよね」と言って、それきりだった。

📺 関連映像: 病院 怪談 看護師 体験談 非常階段 — YouTube で検索

empty stairwell rusted handrail dark Photo by Maksim Istomin on Unsplash

非常階段という場所について少し考えてみる

会話の内容も、覚えてるものを書いてるのでかなり乱文かもしれません。ここからはちょっと冷静に書いてみます。

病院の非常階段ってかなり特殊な空間だと思う。

病院ってのは基本的にすべてが管理されてる場所で、誰がどこにいるか、何時に何をするか、全部記録が残る。ナースコールがあって、監視モニタがあって、電子カルテがあって。でも非常階段だけは、その管理の網の目からこぼれ落ちてる。監視カメラが付いてないことも多いし、日常の動線から完全に外れてる。用がなければ誰も通らない。

民俗学とかでは、怪異が起きやすい場所の条件として「境界性」ってのがよく言われるらしい。病院自体が生と死の境界にある場所だけど、その中でも非常階段は「管理された空間」と「管理されてない空間」の境界にある。二重の境界。そこに何かが入り込んでくるのは、ある意味で筋が通ってるのかもしれない。

そしてもう一つ。小児科病棟って場所そのものが持つ空気について。本来なら外で走り回ってるはずの子供が病に伏してる場所。昼間はナースやご家族の声で賑やかだけど、夜になると、あの小さなベッドが並んだ部屋の静けさは独特のものがある。自分は小児科担当じゃないけど、研修のとき一度だけ夜勤に入ったことがある。あの静けさは、ほかの病棟とは違った。重いとか暗いとかじゃなくて、なんだろう、「祈り」みたいなものが空間に染みてる感じ、と言えばいいのか。うまく言えないんですけど。

Bさんが一番気にしてたのも、シリンジポンプの存在だった。幽霊が点滴台を持ってるだけなら、よくある病院怪談で終わる。でもシリンジポンプまで付いてるってのは、医療現場を知ってる人間にしか気づかないディテールで、しかもそれが三歳の子供に必要だったという状況が暗示してるものの重さ。Bさんは何も説明しなかった。でも聞いてる自分の頭の中で、勝手に「この子に何があったのか」って物語が組み上がっていく。それが一番怖かった。

misty hospital window night empty Photo by Frederic Köberl on Unsplash

結局なんだったのか

Bさんは今もあの病院で働いてる。自分もまだいる。非常階段の巡回も続いてる。

あの夜以来、自分はあの踊り場で何も見ていない。音も聞いていない。冷気も感じていない。Bさんに聞いても「最近は何もないね」としか言わない。Cさんはもう退職してしまって連絡先も知らない。

集団心理とか暗示効果とか、そういう説明は可能だと思う。Bさんの話を聞いた後だったから、自分が過敏になってただけかもしれない。キャスターの音だって、別の階で誰かが機材を動かした音が反響しただけかもしれない。冷気だって、冬の非常階段なんだから当たり前かもしれない。

でも、Bさんがあの子供の顔を語らなかったこと。話題をそらしたこと。あのBさんが。それだけがどうしても引っかかってる。

あと、Cさんが言った「たまに出る」って言葉。つまり複数の人間が、別々の時期に、同じ場所で、同じようなものを見てるってことでしょう。それを暗示効果で片づけることは可能だけど、ホントにそれで片がつくのか、自分にはわからない。

一つだけ言えるのは、この話が「怖いから忘れられない」んじゃなくて、「悲しいから忘れられない」ってこと。三歳の子供が深夜の非常階段で一人、窓もない壁を見つめてる。その光景の中にある孤独。それを見てしまった人間のやるせなさ。怪談っていうジャンルの底には、いつもこういう感情が沈んでるんだなって、今は思います。

皆さんに聞きたい。似たような経験ある方いますか。特に病院勤務の方。あの非常階段で見るアレが何なのか、知ってる人がいたら教えてほしいです。

長文失礼しました。読んでくれた人、ありがとう。

もっと深く知りたい人向けの本

病院を舞台にした怪異とか、医療従事者が語る実話系怪談に興味を持った方に何冊か挙げておきます。まず松村進吉『看護師が遭遇した不思議な話』(竹書房文庫)。現場のリアルな空気感がそのまま怪談になってて、今回の話と同じ温度の体験談がいくつも入ってる。次に小松和彦『憑霊信仰論』(講談社学術文庫)。怪異がなぜ特定の場所、特定の時間に現れるのかを民俗学の視点から掘り下げた古典的名著で、病院怪談を読む目が変わると思う。語りの巧みさで言えば稲川淳二『稲川淳二の怖い話ベストセレクション』(竹書房)にも病院系エピソードが複数入ってるので参考になるはず。あと怪談の構造そのものに興味があるなら柳田國男『遠野物語』(岩波文庫)も併せて読んでみてください。顔の描写が欠落した怪異の話が複数出てきて、今回の「顔を語れない」問題と重なる部分がある。


本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。

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