魚の腹の中に「海を救う菌」がいた──99%の人が知らない深海の炭素循環の話
魚の腸内細菌が炭酸カルシウムを作り、海のCO2を固定している可能性。マイアミ大学の研究が示す驚きの仕組みとは。

あの日、漁港で聞いた話がずっと引っかかている
去年の夏、三重の親戚の家に泊まった時のこと。
叔父は定年まで遠洋漁業の船に乗っていた人で、酒が入ると海の話をするのが好きだった。その夜も焼酎片手にいろいろ語ってくれたんだけど、一つだけ妙に引っかかる話があった。
「魚をさばいとるとな、腸のあたりに白い石みたいなもんが溜まっとることがある。あれ、骨じゃないんよ。魚が自分で作っとるもんなんよ」
俺はその時、へぇーくらいにしか思わなかった。石を作る魚。なんかファンタジーだなと。でも最近、ネットでたまたまある研究の話を見つけて、叔父の言葉がいきなり重みを持って蘇ってきた。
魚の腸の中にいる細菌が、海全体の二酸化炭素の循環に関わっているかもしれない。
正直、スケールがデカすぎて最初は意味がわからなかった。魚の腹の中の話が、なんで地球規模の気候の話に繋がるんだと。でも調べていくと、これがとんでもなく面白くて、同時にちょっと怖い話だった。
長文になります。科学に詳しいわけじゃないので、間違ってたら訂正してほしいです。わかる人がいたらマジで教えてください。
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叔父が見ていた「白い石」の正体
叔父が言っていた「白い石みたいなもん」。あれは炭酸カルシウムの結晶だった。
化学式で書くとCaCO3。貝殻やサンゴの骨格と同じ成分で、チョークの原料でもある。魚が海水を飲むと、体内で塩分を調整する過程でこの炭酸カルシウムが腸の中に生成される。これ自体は以前から知られていた話らしい。硬骨魚類、つまり骨が硬い普通の魚はほぼみんなやってる。
ここまでなら「ふーん、魚の生理現象ね」で終わる。
ところがマイアミ大学の研究チームが注目したのは、その炭酸カルシウムを作る過程に、腸内細菌が深く関わっているんじゃないかという点だった。具体的にはビブリオ科と呼ばれるグループの細菌。ビブリオといえば食中毒の原因菌として有名だけど、海の生態系ではもっと複雑な役割を持っている。
研究チームが調べたところ、魚の腸内に共生しているビブリオ科の細菌が、炭酸カルシウムの生成を促進している可能性が浮かんできた。つまり魚が単独でやっているんじゃなくて、腸の中の細菌と「共同作業」で石を作っているかもしれないということ。
これを聞いた時、俺は叔父の言葉を思い出した。「魚が自分で作っとる」。正確には、魚と細菌が一緒に作っていた。叔父は半分だけ正解だったわけだ。
そしてここからが本題になる。この炭酸カルシウム、海に排出されると海水中の二酸化炭素を固定する働きがある。つまり魚の腹の中で起きている小さな化学反応が、海全体の炭素循環を支えている可能性がある。
スケールの飛躍がすごい。腸内細菌の話が、いきなり気候変動の話に接続する。
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海の「見えない炭素工場」が動いている
ちょっと整理する。
海は地球上で最大の炭素吸収源の一つとされている。大気中のCO2を海水が吸収し、それがさまざまな形で海底に沈んでいく。この仕組みを「生物ポンプ」と呼ぶ。植物プランクトンが光合成でCO2を取り込み、それを食べた動物プランクトンや魚が死んで沈む。そうやって炭素が深海に運ばれていく。
ここまでは教科書に載っている話。
でもマイアミ大学の研究が示唆しているのは、この生物ポンプの中に「魚の腸内細菌が作る炭酸カルシウム」という、これまであまり注目されてこなかった経路があるということ。
魚は生きている間、常に海水を飲み、腸の中で炭酸カルシウムを作り、それを排泄物として海中に放出している。この炭酸カルシウムの粒子は非常に細かくて、海水中をゆっくり沈降しながら、周囲の溶存CO2と反応する。一部はそのまま海底に堆積する。
つまり、魚が泳いでいるだけで、その腹の中では絶えず「炭素固定工場」が稼働していることになる。
研究チームの推定によれば、世界中の硬骨魚類が生産する炭酸カルシウムの量は、海全体の炭酸カルシウム生産量のかなりの割合を占める可能性があるという。具体的な数字については研究者の間でもまだ議論が続いているようだけど、「無視できない量」であることは複数の論文で指摘されている。
俺がゾッとしたのは、この仕組みの逆を考えた時だった。
もし乱獲や環境変化で魚の数が大幅に減ったら。腸内細菌の組成が変わったら。この「見えない炭素工場」が止まったら。海のCO2吸収能力に影響が出るんじゃないか。
そういう視点で海を見たことがなかった。魚を獲りすぎることが、単に魚が減るだけじゃなくて、海の化学バランスそのものを崩す可能性がある。
📺 関連映像: 海洋 炭素循環 魚 腸内細菌 研究 — YouTube で検索
友人Tの反応と、居酒屋で広がった話
この話を知った後、大学時代の友人Tに話した。Tは水産学部出身で、今は食品メーカーで水産加工の仕事をしている。
居酒屋でサバの塩焼きを突きながら、俺が「魚の腸内細菌が海の炭素循環を支えてるかもしれないらしいぞ」と言った時のTの反応が面白かった。
T「あー、魚のgut carbonateの話か。最近うちの会社でもちょっと話題になってたわ」
俺「え、知ってたの」
T「いや、詳しくは知らんけど。魚の消化管から出る炭酸カルシウムが海洋化学に影響してるって論文、2010年代からポツポツ出てたんよ。でも正直、業界的にはあんまり注目されてなかった」
T曰く、水産の世界では魚の腸内環境の研究は主に養殖の効率化や病気予防の文脈で進んでいて、地球規模の炭素循環との接点はまだマイナーな領域らしい。でも最近、気候変動の研究者サイドから「海の魚が作る炭酸カルシウム、ちゃんと計算に入れてなくない?」という声が上がり始めているという。
T「面白いのはさ、ビブリオが関わってるってとこなんよ。ビブリオって海の常在菌で、水温が上がると増えるんだわ。つまり海水温の上昇が、魚の腸内細菌の組成を変えて、炭酸カルシウムの生産量にも影響する可能性がある。正のフィードバックになるのか負のフィードバックになるのか、まだ誰もわかってない」
この言葉が妙に怖かった。
温暖化で海水温が上がる。ビブリオが増える。魚の腸内で炭酸カルシウムの生産が変わる。それが海のCO2吸収に影響する。その結果、温暖化がさらに進むのか、それとも緩和されるのか。まだ誰にもわからない。
Tは最後にこう言った。
T「俺らが毎日さばいてる魚の腹の中で、地球の未来が決まってるかもしれんて話よ。ちょっとロマンあるやろ」
サバの塩焼きの味が、なんか変わった気がした。
Photo by Johnny Ho on Unsplash
日本の海で何が起きているか
この研究はアメリカ発だけど、日本の海にとっても他人事じゃない。
日本近海は世界でも有数の豊かな漁場で、硬骨魚類の種類も数も多い。つまり「魚の腸内炭酸カルシウム工場」の密度が高い海域ということになる。
一方で、日本近海の魚の数は減り続けている。水産庁の統計を見ると、日本の漁獲量は1984年のピーク時から大幅に減少している。原因は乱獲、海水温の変化、海流の変動など複合的だけど、いずれにしても魚が減っているのは事実。
魚が減れば、腸内細菌が作る炭酸カルシウムも減る。それが日本近海のCO2吸収能力にどう影響するのか。こういう視点での研究は、日本ではまだほとんど行われていないようだ。
もう一つ気になるのは、養殖魚の腸内細菌の話。天然魚と養殖魚では餌が違うし、生育環境も違う。当然、腸内細菌の組成も変わってくる。養殖魚の腸内細菌が炭酸カルシウムを同じように作れるのか。あるいは抗生物質の使用が腸内細菌に影響を与えていないか。
Tに聞いたら「そこまで調べた論文は見たことない」と言っていた。
結局、俺たちは海の中で何が起きているのか、ほとんど知らないまま魚を獲って食べている。叔父が見ていた「白い石」の意味を、誰も本気で考えてこなかった。そこに気候変動という地球規模の問題が絡んでいたなんて、叔父も想像しなかっただろう。
先日、叔父に電話してこの話をしたら、しばらく黙った後でこう言った。
「ワシが現役の頃、魚の腹ん中の石なんか、誰も気にせんかったわ。捨てとった。全部捨てとった」
その声が、なんだか寂しそうだった。
Photo by Arthur Mazi on Unsplash
何が分かっていて、何が分かっていないか
整理すると、今わかっていることはこうだ。
硬骨魚類は海水を飲み、腸内で炭酸カルシウムを生成して排出している。この過程にビブリオ科の腸内細菌が関与している可能性がある。そして魚が排出する炭酸カルシウムは、海全体の炭素循環において無視できない量かもしれない。
わかっていないことの方がずっと多い。
腸内細菌がどの程度、炭酸カルシウムの生成を促進しているのか。その量は海洋全体の炭素収支にどれほどのインパクトを持つのか。海水温の上昇や乱獲が、この仕組みにどんな影響を与えるのか。養殖魚と天然魚で違いがあるのか。そもそもビブリオ以外の腸内細菌も関わっているのか。
答えが出ていない問いばかりだ。
でも俺がこの話に惹かれたのは、科学的な重要性だけじゃない。魚の腹の中という、誰も見向きもしなかった場所に、海の未来を左右するかもしれない仕組みが隠れていた。それを見つけたのが、顕微鏡を覗いていた研究者だったということ。
叔父は何十年も魚の腹を見てきた。白い石を見てきた。でもそれが何を意味するのか、知る術がなかった。知識と観察が出会う瞬間に、世界の見え方が変わる。
あの居酒屋の夜から、魚を食べる時に腹の中のことを考えるようになってしまった。箸で身をほぐしながら、この魚の腸にもビブリオがいたのかな、と。ちょっと食事の邪魔になる知識かもしれない。
でも、知ってしまったものは忘れられない。
叔父が海の上で見てきたものの意味が、何十年も経ってからようやく科学で説明されようとしている。それが嬉しいような、間に合わなかったような、複雑な気持ちになる。
この先、海の魚がもっと減った時。あの「白い石」を作る細菌たちがいなくなった時。海がどうなるのか。それを知っている人は、まだこの地球上に一人もいない。
出典: カラパイア
もっと深く知りたい人向け
この話に興味を持った人には、以下の本をおすすめしたい。
『海の中の不思議な生きもの』(武田正倫/講談社ブルーバックス)は海洋生物の生態を平易に解説していて、魚の体内で何が起きているかの基礎知識が得られる。『腸と脳』(エムラン・メイヤー/紀伊國屋書店)は人間の腸内細菌の話が中心だけど、微生物と宿主の共生関係を理解するのに最適な一冊。『炭素文明論』(佐藤健太郎/新潮選書)は炭素という元素を軸に文明と環境を読み解く本で、海の炭素循環の話とも繋がる。海洋環境全般に興味があるなら『海洋プラスチック汚染』(中嶋亮太/岩波科学ライブラリー)も合わせて読むと、海が今どんな状況にあるのか立体的に見えてくると思う。
本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。
📚 この記事で紹介した書籍
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海の中の不思議な生きもの
武田正倫 / 講談社ブルーバックス
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腸と脳
エムラン・メイヤー / 紀伊國屋書店
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炭素文明論
佐藤健太郎 / 新潮選書
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海洋プラスチック汚染
中嶋亮太 / 岩波科学ライブラリー
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