世界怪奇録
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2026-05-08その他

築136年のビルで深夜に聞こえたタイプライターの音──まだ原稿を書き終えていない誰かがいる

サンフランシスコの旧新聞社ビルで改装工事中、深夜の無人フロアに響いたタイプ音。銃撃と大火災を刻んだ壁が再生したものとは。

築136年のビルで深夜に聞こえたタイプライターの音──まだ原稿を書き終えていない誰かがいる
Photo by Atlas Obscura on Unsplash

始まりはSちゃんの電話じゃなくて、俺自身の話

自分、普段はこっち側じゃなくてロム専の人間です。

仕事柄アメリカの西海岸に何年か住んでたことがあって、建築関係のはしくれみたいなことをやってた時期がある。霊感? ゼロです。お化けなんか信じてなかった。少なくとも、2019年のあの夜までは。

長文になると思います。文才もないし、英語圏の話なので固有名詞がゴチャつくかもしれません。読みにくかったら申し訳ない。でも、あの時フロアで感じたことを誰かに聞いてほしくて、ようやく書く気になりました。

場所はサンフランシスコのダウンタウン。マーケットストリートとケアニーストリートの交差点あたりに建ってる、築130年超のビルの話。通称「クロニクル・ビル」。昔、西海岸で一番デカい新聞だったサンフランシスコ・クロニクルの本社だった建物。

先に言っておくと、俺はこのビルの歴史を後から調べて背筋が冷えた。ビルで何が起きたかを書く前に、まずこの建物がどういう経緯で建ったかを説明させてください。そこを知らないと、あの音の意味がわからないので。

皆さんに判別してほしいんです。アレが何だったのか。

デ・ヤング兄弟と、血で綴られた新聞の歴史

サンフランシスコ・クロニクルって新聞は1865年の創刊で、作ったのはデ・ヤング兄弟。チャールズとマイケルっていう二人の兄弟だった。まだ10代だった彼らが始めた小さな新聞が、センセーショナルな記事を売りにしてどんどん部数を伸ばして、19世紀の終わり頃には西海岸トップクラスの発行部数を持つ大新聞になった。

で、その勢いの象徴として建てたのがクロニクル・ビル。完成が1890年。ボザール様式っていうフランス風の豪華な装飾が外観にびっしりついていて、当時としてはかなり高い建物だった。いわゆる初期のスカイスクレイパー。大きな窓が並んでいて、ニュースルームに自然光がたっぷり入るように設計されてたらしい。その後も増築が重ねられて、サンフランシスコが「西部の大都市」として成長していくのと一緒に、このビルも大きくなっていった。

ここまでは普通の建築史の話。問題はデ・ヤング兄弟の人生のほう。

兄のチャールズは1880年、紙面で散々叩いた市長候補の息子に銃で撃たれて死んでる。殺されたんですよ、新聞記事がきっかけで。弟のマイケルも1884年に政敵から銃撃を受けた。こっちは命は助かったけど、弾を体に受けたまま、その後もクロニクルの経営を続けた。

19世紀のアメリカの新聞業界って、マジで血なまぐさい。ペンと銃が隣り合わせの時代だった。ニューヨークやシカゴでも各紙が競うように壮麗な本社ビルを建てた時代で、ニューヨーク・タイムズの旧本社(今のワン・タイムズスクエア)とか、シカゴ・トリビューンのトリビューン・タワーなんかが有名だけど、クロニクル・ビルもその系譜に並ぶ建物。新聞社の社屋って、単なるオフィスじゃなかった。メディア企業の権威と、都市のプライドを形にした装置だった。

そういう暴力と権力と執念が渦巻いてた場所に、あのビルは建ってる。俺がこの話を知ったのは、あの夜の体験の後。調べれば調べるほど、「そりゃあ何か残ってても不思議じゃないな」って思うようになった。

old beaux arts building san francisco fog Photo by Malumo on Unsplash

1906年。街ごと焼けてもビルは残った

サンフランシスコの建物の話をするとき、絶対に避けられないのが1906年の大地震。

マグニチュード7.9。地震そのものも凄まじかったけど、本当にヤバかったのはその後に起きた火災のほう。市街地の80%が焼失したって記録がある。街がまるごと消えたようなもんです。

クロニクル・ビルも深刻なダメージを受けた。火に巻かれて、内装はかなりやられたらしい。でも構造体そのもの、つまり骨格は崩壊しなかった。修復されて、また使われるようになった。

ここで鳥肌が立つのは、ビルが使えなくなった直後の話。クロニクルの記者たちは号外を出し続けた。本社が焼けて使えないなら、湾の向こうのオークランドまで退避して、そっちで紙面を刷った。「建物は焼けても新聞は止めない」。この気概。

当時の記者たちがどんな気持ちでキーを叩いてたか、想像してみてほしい。街が燃えてる。自分の社屋も焼けてる。それでも原稿を打つ手を止めなかった。この話を後から知ったとき、ちょっとゾッとした。だってそれ、あの音と繋がるから。

ちなみに地震から120年近く経った今でも、サンフランシスコのダウンタウンには当時の火災を生き延びた建物がいくつか残ってる。クロニクル・ビルもそのひとつで、外観のボザール様式の装飾は歴史的価値が認められて保存されている。オフィスや商業施設として今も現役で使われてる建物。

俺が仕事で入ったのは、ちょうど内装の改装工事をやってたタイミングだった。

old earthquake ruins sepia dust rubble Photo by Martin Er on Unsplash

📺 関連映像: サンフランシスコ 1906年 大地震 歴史 記録映像 — YouTube で検索

あの夜、旧ニュースルームで聞いたもの

ここからが本題です。会話の内容も、覚えてるものを書いてるのでかなり乱文かもしれません。

2019年の秋。俺はクロニクル・ビルの改装工事に下請けの立場で入ってた。主に壁の計測とか、内装材の採寸とか、地味な作業。日中はテナントが入ってるフロアもあるから、俺らの作業は夜間がメインだった。

その日は深夜1時過ぎ。旧ニュースルームにあたる階で、俺は一人で壁の寸法を測ってた。他の作業員は別のフロアにいるか、もう帰ったか。少なくともその階には俺しかいなかった。入る前にフロアを一周して確認もしてる。

古いビルだから、夜は独特の匂いがする。コンクリートと、なんていうか、古い紙みたいな匂い。湿り気のある埃っぽさ。長い年月をかけて壁に染み込んだインクの残り香。レーザー計測器のビームが暗いフロアに一本スッと走ってて、それ以外は自分の靴音くらいしか聞こえない。静かだった。

カタ、カタカタカタ。

最初、空調の音かと思った。古いビルだし、配管が鳴ることは珍しくない。でも違った。もっと規則的で、もっと近い。フロアの奥のほう。照明を点けてない暗がりの向こう側から聞こえてくる。

カタカタカタカタカタ。カタタタタ。

タイプライターだ、って思った瞬間に鳥肌が立った。

いや、そんなわけない。2019年にタイプライターなんか誰が使うんだ。でも音は間違いなくそれだった。キーを叩く音。一定のリズムで、でもときどき速くなったり、一瞬止まったりする。考え込んで、また打ち始める。原稿を書いてる人間の手つきそのものだった。

俺はレーザー計測器を持ったまま、音のするほうを見た。フロアの奥は真っ暗。懐中電灯を向けたけど、誰もいない。机もない。がらんとした空間にコンクリートの柱が並んでるだけ。

でも音は続いてた。

3分くらいだったと思う。体感はもっと長い。カタカタカタカタ。止まらない。

そして急に、ぴたっと止んだ。

止んだ瞬間のことは今でも体が覚えてる。フロア全体の空気がぐっと冷えた。秋とはいえサンフランシスコの室内でそこまで急激に温度が変わることはない。腕の毛が全部逆立った。首の後ろに冷たい手を当てられたみたいな感覚があって、でも振り返れなかった。振り返ったら何かが見える気がして。

しばらく動けなかった。心臓がバクバクしてて、足が重い。30秒くらいしてから、俺は道具を掴んで階段を駆け下りた。エレベーターを待つ余裕なんかなかった。

翌日、別のフロアで作業してた同僚(仮にTとします)に話した。

俺「昨日さ、5階で一人で作業してたら、奥からタイプライターみたいな音がしたんだけど」

T「w 締め切りに追われた記者のゴーストだろ」

俺「いやマジで。3分くらい続いたんだよ。ずっとカタカタカタって」

T「配管だよ配管。あのビル古いもん」

俺も笑った。笑うしかなかった。でもそれ以降、あの階での夜間の単独作業は断った。Tには「配管の音が気になるから二人で入ろう」って言い訳した。Tは「ビビりだなぁ」って茶化してたけど、俺の目は笑ってなかったと思う。

empty dark office floor night dim light Photo by Maksim Istomin on Unsplash

後から調べて分かったこと

工事が終わって日本に帰ってきてから、気になってクロニクル・ビルの歴史を調べ始めた。それで上に書いたデ・ヤング兄弟の話とか、1906年の地震のエピソードを知ったわけです。

サンフランシスコのダウンタウンって、ゴールドラッシュ時代やバーバリー・コーストって呼ばれた昔の歓楽街の名残で、心霊話の宝庫らしい。有名なホテルや劇場で幽霊を見たって証言はいくらでもある。

クロニクル・ビルが「サンフランシスコの幽霊ビル名所リスト」みたいなものに公式に載ってるかっていうと、そこまでではないみたいだった。でも、地元の怪談好きの間では「あのビル、なんかあるよ」って話がぽつぽつ出てくる。俺みたいに改装工事で入った人間とか、深夜にビルの前を通りかかった人間が、似たような違和感を口にしてる。

あと、これは帰国してから読んだ本に載ってた話なんだけど、イギリスに「ストーンテープ理論」ってのがある。建材が過去の出来事をテープレコーダーみたいに記録して、何かの条件が揃うと再生される、っていう仮説。1972年のBBCのテレビドラマが元ネタで、科学的に証明されたものでは全然ない。オカルトの範疇です。でも、あの夜の打鍵音を思い出すと、「壁が覚えてたんだ」って言われたら、俺は否定できない。

銃撃で兄を殺されても新聞を作り続けたマイケル・デ・ヤング。街が丸ごと焼けても号外を止めなかった記者たち。百年以上にわたって、締め切りに追われた何千人という人間がこのビルの中でキーを叩き続けた。その執念みたいなものが、壁とコンクリートの柱に染みついてるんじゃないか。

冗談みたいだけど、半分本気でそう思ってる。

misty san francisco downtown night streetlight Photo by Ales Krivec on Unsplash

結局なんだったのか

正直、わかりません。

空調の異音だったかもしれない。古い配管が膨張収縮してタイプライターっぽい音を出しただけかもしれない。温度が急に下がったのも、換気システムの切り替えタイミングだったかもしれない。合理的な説明はいくらでもつく。

でも、あの規則的なリズム。速くなったり止まったりする、まるで文章を考えながら打ってるような間合い。あれが配管の音だとしたら、世界一文学的な配管だと思う。

築136年。銃撃事件。大地震。大火災。そして何百人、何千人という記者たちが、締め切りに追われながらこのビルの中でキーを叩き続けた百数十年間。その全部がコンクリートと装飾タイルの中に閉じ込められてるとしたら。あの夜、俺が聞いたのは、まだ原稿を書き終えていない誰かの仕事の音だったのかもしれない。

結局あれが何だったのかは、今もわかりません。

アレが何だったのか知ってる人がいたら、マジで教えてほしい。 長文失礼しました。読んでくれた人、ありがとう。

old typewriter dust dark abandoned desk Photo by Maurice Schindler on Unsplash

もっと深く知りたい人向けの本

サンフランシスコの歴史とか、あの街の怪談に興味が出た人向けに、俺が後から読んだ本を置いておきます。どっちも英語の本だけど、写真が多いので英語苦手でもそこそこ楽しめると思う。

『Denial of Disaster: The Untold Story and Photographs of the San Francisco Earthquake and Fire of 1906』(Gladys Hansen、Emmet Condon 著、Cameron and Company 刊)。1906年の大地震について、当時の政府が被害を過小に発表してた事実を写真と記録で追った本。公式死者数と実際の死者数のあまりの乖離がえぐい。クロニクル・ビルが生き延びた背景、あの時代のサンフランシスコがどんな街だったかがよくわかる一冊。

『Haunted San Francisco: Ghost Stories from the City's Past』(Rand Richards 著、Heritage House Publishers 刊)。ゴールドラッシュ時代からのサンフランシスコの怪談を網羅的に集めた本。バーバリー・コーストの逸話も豊富で、現地を歩くときのガイドとしても使える。クロニクル・ビルそのものが大きく取り上げられてるわけではないけど、あの街に漂う「何か」の正体を知りたいなら読んで損はないです。

どちらもサンフランシスコの光と影を立体的に見せてくれる本。俺はこの2冊を読んで、あの夜聞いた音の「背景」がようやく見えた気がしました。


本記事は世界各地の伝承・都市伝説・公開報道を編集したものです。個別の事象が超常現象であると主張するものではなく、文化史的な記録としてお読みください。心霊スポットへの無断侵入は法的トラブルの原因になります。立入禁止表示には必ず従ってください。


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    Haunted San Francisco: Ghost Stories from the City's Past

    Rand Richards / Heritage House Publishers

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